
犬と猫。
同じ家で暮らし、同じ「ペット」として考えることも多いですが、体のしくみや食性には違いがあります。
では、お腹の中に暮らす腸内細菌も違うのでしょうか?
研究から見えてきた答えは、
「共通する部分もある。でも、同じではない」
です。
さらに腸内細菌は「犬だから」「猫だから」だけで決まるわけではありません。
食事、年齢、生活環境、健康状態、薬、そして個体差。
さまざまな要因が重なり合って、一頭一頭の腸内細菌叢がつくられています。
まず意外なのは、犬と猫の腸内細菌がまったく別世界というわけではないことです。
これまでの研究では、犬猫の腸内で共通して多く見られる主要な細菌群があります。
一方で、その割合や細かな種類、持っている機能には違いがあります。
さらに2024年に報告された大規模なメタゲノム解析では、
犬2,272検体
猫367検体
の便データが解析されました。
その結果、犬と猫で共有される微生物が存在する一方、宿主に適応したと考えられる微生物系統も見つかっています。
つまり、
犬と猫には共通点がある。
でも、それぞれに特徴もある。
ということです。
犬と猫の大きな違いの一つが食性です。
猫は真正肉食動物(obligate carnivore)として、動物性組織から特定の栄養素を摂取することに強く適応しています。
犬も動物性食品を利用しますが、家畜化の過程などを経て、猫とは栄養生理に違いがあります。
そして腸内細菌にとって、腸まで届く栄養成分は重要な環境条件です。
食事中の、
たんぱく質
脂質
でんぷん
食物繊維
などが変われば、腸内細菌の構成や代謝活動も変化することがあります。
犬猫の腸内細菌を考えるとき、
「犬と猫は違う」だけではなく、
「何を食べているか」
を見る必要があります。
食事は、腸内細菌のエサにもなります。
たとえば消化されずに大腸まで届いた一部の食物繊維などは、腸内細菌によって発酵されます。
その過程で、
酢酸
プロピオン酸
酪酸
などの短鎖脂肪酸をはじめ、さまざまな代謝産物が生まれます。
一方、たんぱく質由来の成分を利用する微生物もいます。
つまり食事が変わると、
何の菌がいるか
+
その菌が何をしているか
の両方が変わる可能性があります。
犬猫の研究でも、食事中の食物繊維・でんぷん・たんぱく質などが腸内細菌叢に影響することが報告されています。
腸内細菌は、生まれたときからずっと同じではありません。
子犬・子猫の腸内細菌叢は、成長とともに大きく変化していきます。
特に、
離乳
↓
食事の変化
↓
成長
↓
成犬・成猫へ
という時期は、腸内細菌叢が形成されていく重要な時期です。
犬では2026年に報告された縦断研究でも、子犬から成長する過程で腸内細菌叢が変化し、特に年齢が微生物多様性の強い決定要因だったことが示されています。
猫についても、成長に伴って腸内細菌の構成が変化することが報告されています。
年齢による変化は、子犬・子猫の時期だけではありません。
加齢に伴って、
・食事
・活動量
・消化機能
・免疫機能
・生活習慣
・薬の使用
なども変化します。
そのため、シニア期の腸内細菌についても研究されています。
ただし、
「この菌が減ったら老化」
「この菌を増やせば若返る」
というほど単純な話ではありません。
年齢そのものだけでなく、食事や健康状態などが同時に変わるため、何が原因なのかを切り分けるのは簡単ではないからです。
猫でも年齢による腸内細菌の違いが報告されていますが、まだ研究を積み重ねる必要があります。
ここがとても大切です。
「犬の腸内細菌」
「猫の腸内細菌」
という大きなくくりだけでは説明できません。
同じ犬同士、猫同士でも、腸内細菌叢には個体差があります。
研究では、
・年齢
・食事
・品種・遺伝的背景
・健康状態
・薬
・生活環境
など、さまざまな要因との関連が報告されています。
だから、
「うちの猫と、友達の猫は同じフードだから、腸内細菌も同じ」
とは限りません。
一頭一頭に、それぞれの腸内生態系がある。
と考えた方が実際に近いのです。
腸内細菌研究では、生活環境も注目されています。
室内中心なのか。
外にも出るのか。
ほかの動物と暮らしているのか。
どのような食生活なのか。
そして犬猫は、人間と同じ家で生活するという特徴があります。
そのため現在では、犬猫だけを見るのではなく、人と伴侶動物が共有する環境と微生物という視点からも研究されています。
ただし、環境と腸内細菌の関係は複雑です。
「室内飼育ならこの菌になる」といった単純なものではありません。
ここまで読むと、
「では、犬に多い菌と猫に多い菌の一覧を作ればいいのでは?」
と思うかもしれません。
でも、そう簡単ではありません。
腸内細菌の研究結果は、
・食事
・年齢
・健康状態
・採便方法
・DNAの抽出方法
・解析方法
などによっても変わります。
研究によって、報告される菌の割合がかなり異なることもあります。
だから現在の研究では、
「○○菌が何%なら健康」
という単純な基準を作ることは難しいのです。
もう一つ知っておきたいことがあります。
犬と猫では、研究量にも差があります。
先ほど紹介した大規模研究でも、
犬:2,272検体
猫:367検体
でした。
これは「猫の腸内細菌が重要ではない」という意味ではありません。
単純に、利用できる研究データが犬ほど多くない領域があるということです。
だから、
犬で分かったことを、そのまま猫にも当てはめない。
これはVital Drops+のサイトでも大切にしたい考え方です。
そして、現在の腸内細菌研究はさらに先へ進んでいます。
研究者が見ているのは、
どんな菌がいる?
だけではありません。
どんな機能を持っている?
何をつくっている?
食事によってどう変わる?
健康状態とどう関係する?
というところまで研究されています。
つまり、
【犬と猫の違い】
+
【個体差】
+
【食事】
+
【年齢】
+
【環境】
+
【腸内細菌の働き】
を一緒に考えていく必要があります。
犬と猫の腸内細菌には、共通する部分と異なる部分の両方があります。
さらに同じ犬同士、猫同士でも、まったく同じではありません。
腸内細菌叢は、
動物種だけで決まるのではなく、
食事・年齢・生活環境・健康状態などが重なって形成されるもの。
だから腸内細菌研究では、
「犬だからこう」
「猫だからこう」
と単純化しないことが大切です。
一頭一頭のお腹の中には、それぞれ違う微生物の世界があります。
そして、その違いがなぜ生まれるのか。
それを少しずつ明らかにしているのが、現在の犬猫の腸内細菌研究です。
1.Comprehensive profile of the companion animal gut microbiome integrating reference-based and reference-free methods
犬2,272検体・猫367検体を含む2,639検体を解析した大規模研究。犬猫で共有される微生物と、宿主特異的な特徴を考えるうえで重要です。
PubMedで研究を見る
2.The Gut Microbiome of Dogs and Cats, and the Influence of Diet
Pilla R, Suchodolski JS. 2021. 犬猫の腸内細菌と食事の影響をまとめたレビューです。
PubMedで文献を見る
3.Catching a glimpse of the bacterial gut community of companion animals: a canine and feline perspective
犬猫の腸内細菌に影響する食事・年齢・生活環境などを幅広く整理したレビューです。
PubMedで文献を見る
4.Past, Present, and Future of Gastrointestinal Microbiota Research in Cats
猫の腸内細菌研究について、年齢などの影響と研究上の課題を整理したレビューです。
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