
「昨日から少し便がやわらかい」
そんな一時的な変化なら、食べ慣れないものや急なフード変更などが関係していることもあります。
でも、
何日も下痢が続く。
良くなったと思ったら、また下痢になる。
何週間も軟便と下痢を繰り返している。
こんなときは、
「下痢を止めるには?」だけではなく、
「なぜ続いているの?」
という視点が大切になります。
下痢は病名ではありません。
体の中で何かが起きていることを知らせる「症状」のひとつです。
「下痢が続いています」だけでは、分からないことがたくさんあります。
まず確認したいのは、
いつから?
1日何回?
水様?泥状?軟便?
量は多い?少ない?
血はある?
粘液はある?
黒っぽくない?
そして便だけではなく、
元気はある?
食欲はある?
吐いていない?
体重は減っていない?
も大切です。
同じ「下痢」でも、これらの情報によって考えることが変わってきます。
まず確認したいものの一つが食事です。
たとえば、
フードを急に変えた
新しいおやつを食べた
いつもと違うものを食べた
食べ過ぎた
人の食べ物を食べた
といったことがきっかけになる場合があります。
一方、長く下痢が続く犬猫では、食事に反応する慢性腸症が含まれることもあります。
実際、慢性腸症では食事療法が診断・治療の重要なステップで、食事変更だけで改善する症例も少なくありません。
ただし、
「下痢だから、とにかくフードを次々変える」
のはおすすめできません。
何を、いつから、どのくらい食べたかが分からなくなり、原因を整理しにくくなることがあります。
下痢が続くときには、寄生虫や原虫も候補になります。
たとえば、
回虫
鉤虫
コクシジウム
ジアルジア
などです。
特に子犬・子猫、多頭飼育環境などでは注意が必要です。
猫のジアルジアでは、急性または慢性の下痢がみられることがあり、感染していても症状がない猫もいます。また、ジアルジアは便中に常に検出されるとは限らないため、複数の便検体が必要になる場合があります。
つまり、
「一度の便検査で何も出なかった=寄生虫・原虫は絶対にいない」
とは限りません。
獣医療では、便の特徴から小腸性か大腸性かを考えることがあります。
たとえば大腸性下痢では、
回数が増える
1回の量は少ない
何度も排便姿勢をとる
粘液が出る
鮮血が混じる
といった特徴がみられることがあります。
一方、小腸の問題では、大量の便や体重減少などが手がかりになることがあります。
ただし、
便を見ただけで「小腸の病気」「大腸の病気」と診断することはできません。
あくまで原因を探すためのヒントです。
下痢の犬猫では、健康な犬猫とは異なる腸内細菌叢が認められることがあります。
このような腸内細菌叢の変化は、
ディスバイオーシス
と呼ばれます。
ただし、ここで大切なのは、
「腸内細菌が乱れたから下痢になった」
と単純には言えないことです。
病気によって腸内環境が変わった可能性もありますし、食事や薬の影響もあります。
つまりディスバイオーシスは、
原因になる場合
病気に関与する場合
病気の結果として起こる場合
を簡単には切り分けられません。
慢性腸症の管理では、食事やプロバイオティクスなどによるマイクロバイオータへのアプローチも検討されますが、それだけで原因診断の代わりにはなりません。
ここはぜひ知っておいてほしいポイントです。
下痢だからといって、原因が必ず腸にあるとは限りません。
獣医師は長引く下痢に対して、消化管疾患だけでなく、必要に応じて、
膵外分泌不全
肝臓・胆道系の病気
腎臓の病気
内分泌疾患
腫瘍
なども考えます。
だからこそ、
「整腸剤を飲ませても治らない」
=もっと強い整腸剤が必要
とは限りません。
原因そのものを見直す必要があることがあります。
犬猫では、下痢や嘔吐、食欲低下などの消化器症状が3週間以上続く場合、慢性腸症という枠組みで評価されることがあります。
慢性腸症には、
食事に反応するもの
腸内細菌への介入に反応するもの
免疫抑制治療が必要になるもの
治療に反応しにくいもの
などがあります。
そして「慢性腸症=すぐIBD」というわけでもありません。
現在は、慢性的な下痢を一つの病名でまとめるのではなく、検査や治療への反応を見ながら原因を整理していく考え方が使われています。
これは飼い主さんが一番知りたいところだと思います。
長引く下痢では、症状や年齢などに応じて、
便検査
血液検査
尿検査
超音波検査などの画像検査
膵臓の機能を調べる検査
ビタミンB12(コバラミン)などの検査
が検討されることがあります。
必要な場合には、内視鏡や腸の組織検査まで進むこともあります。
すべての犬猫が最初から全部の検査をするわけではありません。
症状・経過・年齢・身体検査などから、必要な検査を順番に考えていきます。
以前は、原因がはっきりしない下痢に抗菌薬が使われることもありました。
しかし現在では、慢性腸症の多くで抗菌薬がどこまで有効なのかは不確実であり、不必要な使用を避ける方向へ考え方が変わっています。
抗菌薬が必要な病気はあります。
大切なのは、
「下痢だから抗菌薬」ではなく、
「なぜこの子に抗菌薬が必要なのか」
を考えることです。
下痢が続いて動物病院へ行くときは、記録がとても役立ちます。
おすすめは、
便の写真
便スコア
1日の排便回数
血・粘液の有無
嘔吐の回数
食欲
体重
食べているフード・おやつ
最近変更した食事や薬
です。
「ずっと下痢です」よりも、
普段は便スコア2〜3。5日前から5〜6になり、1日2回だった排便が5回に増えた。粘液あり。食欲はある。
と伝えられると、状況がずっと分かりやすくなります。
下痢の期間だけでなく、犬猫の全身状態を見ることが重要です。
特に、
ぐったりしている
食べない・飲めない
繰り返し吐いている
血便が多い
黒いタール状便が出る
強い腹痛が疑われる
脱水している
体重が減ってきた
子犬・子猫
高齢または基礎疾患がある
といった場合は、「もう少し便を見てみよう」と長く様子を見ず、動物病院へ相談してください。
また、下痢が何日も改善しない、あるいは良くなったり悪くなったりを繰り返す場合も、原因を調べる価値があります。
下痢が続くとき、
「腸内環境が乱れているのかな?」
と考えることは一つの視点です。
でも、それだけではありません。
食事、寄生虫・原虫、腸の炎症、腸内細菌叢の変化、膵臓など消化管以外の病気まで、さまざまな原因があります。
だから長引く下痢では、
「何を飲ませれば止まる?」から
「なぜ続いている?」へ。
視点を変えることが大切です。
便の硬さ・回数・色だけでなく、食欲・元気・嘔吐・体重など、その子全体を見る。
それが、長引く下痢の原因を見つける第一歩になります。


