
腸内細菌というと、
「どんな菌がいるの?」
ということに目が向きがちです。
でも最近の研究では、もう一つ重要なことが注目されています。
その腸内細菌が、腸の中で何をしているのか?
です。
腸内細菌は、食べ物のうち消化されずに腸まで届いた成分などを利用し、さまざまな物質をつくります。
こうして生まれる物質を、
「代謝産物(metabolites)」
といいます。
つまり腸内細菌は、ただ腸に「住んでいる」だけではありません。
食べ物を材料にして、さまざまな物質をつくる小さな化学工場
のような側面も持っています。
腸内細菌の代謝産物として、特によく研究されているのが、
短鎖脂肪酸(SCFA:Short-Chain Fatty Acids)
です。
代表的なのは、
酢酸(acetate)
プロピオン酸(propionate)
酪酸(butyrate)
の3つです。
犬や猫でも、腸内細菌による発酵と短鎖脂肪酸の産生が研究されています。
たとえば食物繊維や一部の難消化性炭水化物は、犬猫自身の消化酵素だけでは十分に分解されず、大腸まで届くものがあります。
そこで活躍するのが腸内細菌です。
腸内細菌がこれらを利用して発酵すると、その結果として短鎖脂肪酸などがつくられます。
イメージすると、
食物繊維など
↓
大腸まで届く
↓
腸内細菌が利用する
↓
発酵
↓
短鎖脂肪酸などが生まれる
という流れです。
実際、犬ではプレバイオティクスの摂取と便中の酢酸・プロピオン酸・酪酸濃度との関係を調べた研究もあります。
「短鎖脂肪酸」とまとめて呼ばれますが、それぞれ性質は同じではありません。
腸内で多くつくられる短鎖脂肪酸の一つです。
吸収された後、宿主のエネルギー代謝にも利用されます。
腸から吸収され、主に肝臓などで代謝されます。
エネルギー代謝との関係が研究されています。
特に注目される短鎖脂肪酸です。
大腸の上皮細胞(colonocytes)の重要なエネルギー源として利用されることが知られています。
つまり、
「短鎖脂肪酸が多ければ全部同じ」
ではありません。
種類によって、体内での使われ方や研究されている働きが異なります。
ここが、最近の腸内細菌研究でとても面白いところです。
ある働きをする物質を、一種類の細菌だけがつくっているとは限りません。
異なる種類の細菌が、似た機能を担うことがあります。
そのため、
「○○菌が多いから良い腸」
という見方だけでは、腸内環境を十分に説明できません。
犬猫の腸内細菌研究でも、
どの菌がいるか(構成)
だけではなく、
何をしているか(機能)
そして、
何がつくられているか(代謝産物)
を見ることが重要になっています。
さらに興味深い研究があります。
健康な犬を対象に、異なる種類・量の食物繊維を含む食事を与え、腸内細菌と代謝産物を同時に調べた研究では、食物繊維によって腸内細菌だけでなく、短鎖脂肪酸などの代謝産物にも変化がみられました。
しかし、その反応は単純ではありません。
もともとその犬が持っている腸内細菌の構成によっても、食物繊維に対する代謝産物の反応が異なることが示されています。
つまり、
食物繊維
+
腸内細菌
↓
代謝産物
という関係があります。
「同じものを食べれば、すべての犬で同じ腸内環境になる」とは限らないのです。
腸内細菌が関係する代謝産物は、短鎖脂肪酸だけではありません。
たとえば、
乳酸
胆汁酸に関連する代謝物
アミノ酸・たんぱく質由来の代謝産物
アンモニア
分岐鎖脂肪酸
など、さまざまな物質が研究されています。
ここで重要なのは、
「腸内細菌=短鎖脂肪酸だけ」ではない
ということです。
腸の中では、多数の微生物と代謝産物が関わる複雑なネットワークが存在しています。
胆汁酸は、もともと宿主側でつくられ、脂肪の消化・吸収などに重要な役割を持つ物質です。
しかし腸内に入った胆汁酸の一部は、腸内細菌によって変換されます。
そのため現在では、
宿主がつくる胆汁酸
↓
腸内細菌が変換する
↓
別の胆汁酸へ
という相互作用も、犬猫の腸研究で重要なテーマになっています。
これは、「腸内細菌が何かをゼロから作る」という話だけでなく、体がつくった物質を腸内細菌が作り変えることもある、という面白い例です。
昔ながらの腸活では、
善玉菌を増やす
悪玉菌を減らす
という説明がよく使われてきました。
これは腸内環境を簡単に説明するには分かりやすい表現です。
しかし実際の腸内細菌の世界は、もっと複雑です。
現在の研究では、
どの菌がいる?
↓
どんな遺伝子を持っている?
↓
何をつくっている?
↓
それが宿主とどう関係する?
というところまで調べられるようになっています。
だからこれからは、
「何の菌がいるか」だけではなく、
「腸の中で何が起きているか」
を見ることが重要になっていきます。
ただし、
短鎖脂肪酸が多ければ多いほど健康
と単純に考えることもできません。
代謝産物の種類や量は、
食事
腸内細菌の構成
腸内の場所
消化管通過時間
健康状態
個体差
など、さまざまな条件によって変わります。
また、便から測定した代謝産物の量が、そのまま腸内でつくられた総量を表すとは限りません。腸内で産生された物質の一部は、すでに腸から吸収されているからです。
そのため研究では、菌の種類・遺伝子・代謝産物・宿主側の状態を組み合わせて考える方向へ進んでいます。
腸内細菌は、ただお腹の中に住んでいるだけではありません。
食べ物などを利用し、
酢酸
プロピオン酸
酪酸
といった短鎖脂肪酸をはじめ、さまざまな代謝産物に関わっています。
そして今、腸内細菌研究は、
「どんな菌がいる?」から
「その菌たちは何をしている?」へ。
進んでいます。
腸内環境を理解するには、菌の名前だけを見るのではなく、腸内細菌・食事・代謝産物・犬猫自身の体を一つのつながりとして見ることが大切です。
1.Pilla R, Suchodolski JS. The Gut Microbiome of Dogs and Cats, and the Influence of Diet. 2021.
犬猫の腸内細菌と食事、短鎖脂肪酸・胆汁酸などの代謝機能について整理したレビューです。
PubMedで文献を見る
2.Jackson MI, et al. Response of the gut microbiome and metabolome to dietary fiber in healthy dogs.
健康な犬で、食物繊維・腸内細菌・代謝産物を一緒に解析した研究。
PubMedで研究を見る
3.Rowe JC, Winston JA. Collaborative Metabolism: Gut Microbes Play a Key Role in Canine and Feline Bile Acid Metabolism. 2024.
犬猫の腸内細菌と胆汁酸代謝との関係をまとめたレビューです。
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4.Wilson SM, Swanson KS. The influence of 'biotics' on the gut microbiome of dogs and cats. 2024.
プロバイオティクスやプレバイオティクスなどと犬猫の腸内細菌との関係を整理したレビューです。
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