
プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせる「シンバイオティクス」。犬猫の腸内細菌や便、代謝産物にどのような影響が研究されているのか、組み合わせる意味と研究の限界を解説します。
プロバイオティクスとプレバイオティクス。
これまでの記事では、それぞれを別々に見てきました。
では、
この2つを一緒に使ったらどうなるのでしょうか?
この考え方が、
シンバイオティクス(synbiotics)
です。
簡単にいえば、
プロバイオティクス
+
プレバイオティクス
という組み合わせ。
ただし研究の世界では、
「菌と、そのエサを一緒に入れれば、必ず相乗効果が生まれる」
というほど単純には考えられていません。
大切なのは、何と何を、なぜ組み合わせるのかです。
ISAPP(国際プロバイオティクス・プレバイオティクス科学協会)は2020年、シンバイオティクスを、
生きた微生物と、宿主の微生物によって選択的に利用される基質を組み合わせ、宿主に健康上の利益をもたらすもの
とする国際的なコンセンサスを発表しました。
ここで重要なのが、
ただ一緒に入っているだけでは十分ではない
ということです。
最終的には、その組み合わせによって健康上の利益が示されることが重要になります。
現在のシンバイオティクスの考え方では、大きく2つに分けられます。
プロバイオティクスとプレバイオティクスが、
それぞれ独立して働くことを想定した組み合わせ
です。
たとえば、
「研究されたプロバイオティクス」
+
「研究されたプレバイオティクス」
を一緒に使用する考え方です。
こちらはもう一歩進んでいます。
プレバイオティクス側の基質を、
一緒に配合した特定の微生物が利用するように設計する
という考え方です。
つまり、
「一緒に入っている」ことと
「一緒だからこそ働く」ことは別
なのです。
考え方としては、
生きた微生物を加える
+
腸内の微生物が利用できる基質を加える
という2方向から、腸内環境に働きかけることになります。
プレバイオティクスとして使われるFOSやイヌリンなどは、腸内細菌によって利用・発酵され、その過程で短鎖脂肪酸などの代謝産物が作られます。
一方、プロバイオティクスは特定の生きた微生物そのものです。
そのため、
微生物
↓
利用できる基質
↓
発酵
↓
代謝産物
という一連の関係を考えて組み合わせることができます。
犬では、複数のプロバイオティクス菌とプレバイオティクスを組み合わせた製剤について研究されています。
たとえば、健康な犬にシンバイオティクスを与えた研究では、便中の微生物構成や一部の発酵産物などに変化が報告されています。
一方、すべての評価項目が大きく変化するわけではなく、使用する菌株・プレバイオティクス・食事条件などによって結果は異なります。
これはシンバイオティクス研究を見るうえで重要です。
「シンバイオティクス」という名前だけで、すべてを同じものとして扱うことはできません。
健康な犬だけでなく、消化器疾患のある犬を対象にした研究もあります。
慢性腸症などを対象として、食事療法にシンバイオティクスを組み合わせ、腸内細菌、代謝物、臨床症状などを調べた研究があります。
一部では腸内細菌や代謝物の変化が報告されていますが、
シンバイオティクスだけの効果なのか、食事療法など他の要因によるものなのか
を慎重に読む必要があります。
治療中の犬では特に、
「サプリメントだけで治療できる」
という意味ではありません。
猫でもプロバイオティクスやプレバイオティクス、シンバイオティクスについて研究されています。
ただし、犬と比較すると研究数や対象頭数が少ないものもあります。
そのため、
犬で確認された結果を、そのまま猫に当てはめることはできません。
これはこれまでの腸内細菌研究と同じです。
犬と猫では食性や栄養生理にも違いがあります。
「犬猫用」とまとめて考えるのではなく、
犬では?
猫では?
と分けて研究を見ることが重要です。
ここがこの記事で一番伝えたいところです。
答えは、
組み合わせただけでは分かりません。
たとえば、
Aというプロバイオティクス
+
Bというプレバイオティクス
が入っていたとしても、
AとBを一緒に使うことで、単独使用以上の効果が生まれる
ことまで自動的に証明されるわけではありません。
ISAPPの定義でも、「相補的」と「相乗的」は明確に分けられています。
だから、
プロバイオティクス+プレバイオティクス
=必ず相乗効果
ではありません。
これはプロバイオティクスの記事とも共通します。
乳酸菌20種類だから、1種類より優れている。
菌+FOSだから、菌だけより優れている。
このような比較は、配合数だけではできません。
研究を見るなら、
どの菌株か
どのプレバイオティクスか
どのくらいの量か
どのような組み合わせか
犬か猫か
健康な動物か、疾患のある動物か
何を評価した研究か
まで確認する必要があります。
数が多いことと、科学的根拠が強いことは別です。
これも違います。
シンバイオティクスを与えたあと、
「ある菌が増えた」
「ある菌が減った」
という結果が出ることがあります。
でも、
腸内細菌叢が変化した=健康状態が改善した
とは限りません。
便の状態、食欲、体重、症状、炎症に関する指標、代謝産物なども含めて評価する必要があります。
現在の腸内細菌研究では、
「誰がいるか」だけでなく「何をしているか」
を見ることが重要になっています。
プレバイオティクスが腸内細菌に利用されると、発酵によってさまざまな代謝産物が作られます。
代表的なのが、
酢酸
プロピオン酸
酪酸
などの短鎖脂肪酸です。
そのためシンバイオティクス研究でも、
菌の構成だけではなく、発酵によって何が作られたのか
を見ることがあります。
つまり、
プロバイオティクスを入れた
+
プレバイオティクスを入れた
だけで終わらず、
その結果、腸の中で何が起きたのか
まで調べるわけです。
そういうことでもありません。
プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせることには、明確な科学的な考え方があります。
ただし、
組み合わせたという事実だけでは、その組み合わせの有効性は証明できない
ということです。
これはむしろ、シンバイオティクスを正しく理解するために重要です。
研究では、
何と何を組み合わせたのか?
なぜその組み合わせなのか?
実際に何が変化したのか?
健康上の利益まで確認されたのか?
という順番で見ていく必要があります。
シンバイオティクスという考え方は、
「菌を入れる」だけでも
「菌のエサを入れる」だけでもない
というところに特徴があります。
微生物と、その微生物が利用する基質、そして腸内で起こる発酵や代謝まで含めて考えるものです。
一方で、
すべての組み合わせに相乗効果があるわけではありません。
だからこそ、
「シンバイオティクス配合」という言葉だけではなく、中身を見る。
これが研究を読むときの大切なポイントです。
シンバイオティクスは、
プロバイオティクス
+
プレバイオティクス
という考え方から生まれています。
でも、
1+1なら必ず2以上になる
という意味ではありません。
大切なのは、
どの微生物と、どの基質を、なぜ組み合わせたのか。
そして、
その組み合わせによって実際に健康上の利益が確認されたのか。
研究を見るときには、そこまで確認する必要があります。
だからシンバイオティクスは、
「たくさん入れる」という発想ではなく、
「組み合わせを設計する」という発想
として理解すると、ぐっと分かりやすくなります。